秘書の仕事を考えるOliveブログ
AIで「春」は来ない 〜意味を編む秘書の仕事〜
「ひこうき雲」「中央フリーウェイ」「春よ、来い」
先日、松任谷由実さんが50年間に生み出してきた歌詞のすべてをAIに学習させ、新しい歌詞の生成を試みた、というインタビュー記事を読みました。
AIが返した歌詞は“それらしい”響きをまとっていたものの、「Yumingの新作にはなりえなかった」と語っていました。
私が実施したセミナー「秘書のためのSI&A インバスケット研修」で、生成AIを活用してお礼状を作成するケーススタディを行いました。
【ケース/役員からの指示】
役員「昨晩の会食の礼状を頼む。丁寧なおもてなしをいただいた。料理は上質で、特にメインの仔牛は美味しかった。火入れが絶妙でねえ。料理長も紹介してもらい、店の雰囲気も素晴らしかったな。」
同じ指示文を読み、AIを使っているにもかかわらず、完成した文章の“深さ”には大きな差がありました。もちろん、プロンプトが異なれば出力が変わることは、誰もが理解しています。
しかし、今回浮かび上がった差は、単なる入力文の違いでは説明しきれない「意味の差」でした。
いくつかの文章には、
・会食の情景が盛り込まれ
・相手への敬意が丁寧に編み込まれ
・役員の言葉の奥にある“温度”が滲む
という「意味の質」がありました。
その違いはどこにあったのでしょう。
今年10月に秘書実務能力開発機構が主催した「第6期 森の秘書会議」(毎年実施している秘書のためのオフサイト・セミナー)で招聘した、AI専門家集団(株式会社パンハウス)によるスキル・セミナーで見事に解説しています。
- AIは「正解を知らない」
AIはもっともありそうな単語の並びを確率的に予測しているだけです。
- AIは「確信度」で文章を組み立てる
“火入れが絶妙”と入れると、AIは「その語に追従して、よく使われる言い回し」を自動的に選びます。似ている文章が量産される理由です。
- AIは、文脈を理解してはいない
役員の個性、相手先との関係、未来の関係構築 ― こうした意味構造にはAIは触れられません。
- AIは「依頼の分解」で賢さが変わる
複雑な指示を一度に渡すと、AIから返答の精度は落ちます。逆に、目的、背景、伝えたい温度感、避けたい語彙、文体の方向性を段階的に与えると、AIの出力精度は向上します。
つまり、AIの品質は秘書の「問いの質」「構造化力」「意図の翻訳力」で決まるのです。今回のケース・スタディで見えた文章の違いは、まさにここから生まれたのでしょう。「AIに何を渡すのか」を判断することが、秘書の力量を左右します。これこそがAI活用の本質だと痛感しました。
秘書室の現場では、今、業務標準化やナレッジ管理、情報共有などにAIをどのように活用するかの検討が叫ばれており、この変化を受け、当機構では2025年末よりAI専門家チームと協働した「秘書業務特化型AI導入プラットフォーム」の開発を進めております。AIは秘書の仕事を奪うものではありません。むしろ、秘書が“本来向き合うべき領域“、すなわち「意味」「意図」「関係性」「信頼」に集中するための時間(余白)を作ってくれる力強いサポーターなのです。
そう簡単に、AIで次回作の「春」は来ないのです。我々がAIを駆使し続ければ、きっと素敵な春を迎えることができるでしょう。
丸山 ゆかり
一般社団法人日本秘書協会 元専務理事、当協会認定講師
1995 年度ベストセクレタリー(日本秘書協会主催)
株式会社チュニーズ・カンパニー 代表取締役
秘書実務能力開発機構(Pro-Admin JAPAN) 代表
大手製薬会社にて社長秘書、秘書課長、国際本部営業部欧米課課長。その後、化粧品会社の取締役副社長を経て独立し株式会社チュニーズ・カンパニーを設立。一般社団法人日本秘書協会では、理事として20年間務め、セミナー委員などを歴任。
秘書教育に30年間ほど携わり、2005 年より日本秘書協会主催の秘書実務講座、接遇セミナー等を担当。各企業で展開。企業、自治体、官公庁での秘書研修は 350 件以上。ジャパンラーニング(株)と共同で秘書 EQ を開発し、秘書力向上研修を実施するほか、秘書のスキルアップとキャリアアップのためのオフサイトセミナー「森の秘書会議」を主宰。秘書実務スキルの向上のため、ジョブ型移行・能力評価のための新システムを大手企業秘書室とともに開発し、秘書実務能力開発機構 (Pro-Admin JAPAN)として新時代の秘書育成を展開中。薬剤師・薬学修士・キャリアコンサルタント