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秘書の雑用とご褒美

昨秋あたりから日経新聞などに “つながらない権利” というテーマの記事が増えてきました。テレワークの普及で勤務時間に関する感覚が変化し、休日や夜中にメールやSNSで連絡を取るケースが増えてきたため、就業時間外の会社からの連絡を中止する、または受信者が対応しない権利です。フランスやメキシコでは既に法律で禁止されており、欧州が先行して指針化や制度化に着手している国が増えています。
この記事を読んだ日本の経営者の中には、国内でも法制化などが進む可能性を感じ、自社でも取り組もうと検討を始めたところもあると思います。ただし、経営者は実質24時間365日勤務なので自分の秘書だけは例外・・・と考えている人もいるかもしれませんが。秘書にも当然、つながらない権利があり、相応な検討を踏まえて法制化されることを期待します。
しかし、私の秘書時代を思い出すと、当時は休日でも社長からの連絡を受ける状態でした。休日ゴルフの最中に社長からの携帯電話が鳴ると、煩わしいと思うこともありましたが、何か困ったことが起きたのではと心配の方が先に立ち対応しました。要件は翌日の会議の確認など些細なことも多かったのですが、私にとっては必要とされている実感が煩わしさよりも勝っていたように思います。

秘書の仕事は日常的に行う業務のほか、時にはいわゆる雑用までこなさなければならないこともあります。昨年、私の秘書研修の受講生より、現場から秘書に異動してきたけれども、毎日雑用のような仕事が多くモチベーションが上がらないと相談をされました。
秘書に配属された時の最初の研修内容の事例をご紹介します。複合機メーカに勤務している、私が尊敬するある秘書管理職は、秘書業務の技術面を教える前に、秘書の心得を1時間程度きっちり話すそうです。

「秘書の仕事は正直言って雑用のような仕事ばかりです。でも、その雑用を軽く見てはいけません。雑用だけれども、経営に直結しているものばかりで、ミスや遅れがあると会社の運営や信頼に影響する大事な業務です。」

こう語る秘書管理職である彼女自身も、秘書のたたき上げなので実感のこもった説明なのでしょう。一見雑用と思われる秘書の仕事もきちんとこなしてもらうには、このように最初のマインドセットが大切だそうです。これをしないで、スケジュールや手配などの業務説明を先に行うと、重要性の認識をせず、機能的に行うことだけを優先する秘書になる可能性があるからです。

日本秘書協会が主催する全国秘書会議で、日本商工会議所会頭で旭化成の社長も務められた山口信夫さんにご講演をしていただいたことがあります。その時、山口さんは秘書の心得としてこう話されました。

「細事こそが人の心を動かします。こんなことまでやってくれているのだという細事をきちんとこなすことが秘書には大切です」

この場合の細事とは雑用と同じ意味です。山口さんはこの言葉のあとに以下のように付け加えられました。

「役員も細事のプロです。会議や接待ばかりやっていると思われがちですが、自分の執務室、新幹線の移動中や宿泊先など時間がある時は、翌日の訪問先の経営内容のチェックや会議資料の確認など細事ばかりしています。役員と秘書が共に細事のプロでなくては、よい仕事はできないのです」

昨年9月、緊急事態宣言が解除されてからは、緩やかにAfterコロナに移っていくように思え、役員の会食も国内出張も増えました。しかし、2022年に入りオミクロン株により再びWithコロナに戻りました。
コロナ禍になってからのここ1~2年は、会社の大きなイベントも数少なく、秘書にとってはややメリハリのない、同じような日々が続きます。もともと、秘書の仕事は毎日、どんどんやってくることを、滞りなく処理していくことが多いのです。
そういう中で、ある知り合いの秘書はこういう取り組みをされています。

毎日の目標を次の2つにする。1つは自分のボスから3回ありがとうと言ってもらう。もう1つはボス以外からも3回言ってもらう。

ボスと接する機会は多いので、ボスの3回は比較的容易だったらしいのですが、ボス以外はなかなか機会もなく難しい。今はコロナでテレワークの場合はボスさえもできない日があるそうです。
彼女は、両方とも3回できた日をカレンダーに印をつけていきました。できた日が次第に増えていくと、自分が役に立っていることと、自分の仕事の成果のようなものが“見える化”されてきて、さらに勉強やスキルアップをするモチベーションにつながったと言っていました。
秘書の仕事もどの仕事も、人の役に立つことが目的の一つかもしれません。雑用と思えることも人の役に立つことはたくさんあります。

“頼まれごとは試されごと”です。秘書に入って来る仕事はすべて試されごとだと思います。試されながらそれに応えることができれば、“次の仕事という、自分のスキルアップといずれチャンスにつながるご褒美”がもらえるのです。

このコラムの執筆者

及川 学

一般社団法人日本秘書協会
・元常任理事
・秘書管理職委員会総括責任者
・認定講師「経営サポート力講座」「秘書基礎講座」「実践危機管理セミナー」
「新任秘書管理職講座」「秘書のための経営知識」などを担当

■現住所 千葉市
■年齢 62歳
■職歴大興電子通信株式会社(東証2部)
営業課長、秘書課長、経営企画部長、営業推進統括部長などを経て
上席理事企画推進本部副本部長、コーポレート本部副本部長、
イノベーションセンター長(本部長)関西支店長(本部長)
などを歴任。2016年9月退職後、
KSGグループ秘書役兼IT統括室長
兼一般社団法人信書便事業者協会事務局長を経て現職
■現職 一般社団法人日本セルフストレージ協会事務局長
■資格 中小企業診断士
BCAO認定事業継続初級管理者(国内BCP資格)
■公職等日本経営システム学会 正会員
秘書フォーラム発起メンバー
CBS(国際秘書)検定 元試験委員(経営・法律)
■著作 『秘書室長実践マネジメントマニュアル』代表著者(アーバンプロデュース社)
『よくわかる経営知識』 (日本秘書協会)
■講師歴経済産業省、総務省、岩手県、商工会議所、日本秘書協会、
日本IBM、税理法人トーマツ、ヤマハ発動機、新日本石油、シスメックス、
ボストンコンサルティング、セブンイレブンジャパン、日立製作所、豊田通商、
イオン、ブリヂストン、他

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