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変わる経営、変わらない支え ― 会社の転換期を支える、秘書の役割とは ―

私が秘書室に配属されたばかりの頃、先輩秘書からかけられた言葉があります。
それは、「会社のトップを支える秘書は、会社の重要な基幹を支える仕事であり、気配りや身近なサポートはもちろんのこと、経営を支える視点がより一層求められる」というものでした。
当時の私は、経験の浅さもあり、その言葉の本質を十分には理解できていませんでした。日々の段取りや細やかな配慮が秘書の仕事に欠かせないことは理解していましたが、それらがどのように経営や会社全体につながっていくのかについては、まだ実感を伴って捉えられていなかったからです。
その後、秘書として経験を重ねる中で、私は複数の会社において経営陣の体制移行に関わってきました。経営トップや役員が交代すると、意思決定の進め方や優先順位、経営課題の捉え方は時代に即して変化していきます。会議の進め方や資料の粒度、発信される言葉の選び方が変わることで、組織の空気も少なからず変わっていきます。秘書は日々の業務を通じて、そうした変化を比較的早い段階から感じ取る立場にあります。
そうした経験のなかでも、強く私の記憶に残っているのは、創業者が逝去された際の役員対応です。突然の訃報は、会社全体に大きな影響をもたらしました。創業者は、単に事業を立ち上げた人物ではなく、経営判断の軸や企業文化の礎を長年にわたって築いてきた存在です。その大きな存在を失った中で、企業として適切な判断と対応を進めていくことが求められる、非常に難しい局面でもありました。
情報の扱い一つで、会社への信頼に影響を及ぼしかねない状況であり、限られた情報の中で、対外的な対応や社内への伝え方には、極めて慎重な判断が求められます。
秘書として私が改めて強く意識したことは、「知っていること」と「伝えてよいこと」は必ずしも同じではない、という点でした。必要な人に、必要なタイミングで、必要な範囲だけが正しく伝わるよう、実務の一つひとつに細心の注意を払う。その積み重ねこそが、経営と会社を支えることにつながっているのだと実感する事案でもありました。
また、この出来事を通して改めて考えさせられたのが、これまで会社を率いてきたトップの考えや価値観を、どのように次の体制へつないでいくのかという点です。創業者の言葉や判断は、長年の経験と努力の結晶であり、組織の中に深く根付いた価値観でもあります。新しい体制へ移行する中で、すべてをそのまま残すことはできませんが、簡単に切り替えてしまってよいものでもありません。これまでのやり方を守ること自体が目的なのではなく、新体制が円滑に機能するために、何を引き継ぎ、何を見直していくのかを見極めることが求められます。秘書は、その過程を最も近い立場で支えながら、新しい体制の考え方や方向性が日々の業務や運営に反映されるよう、実務面から下支えしていく役割を担っています。
一方で、どの体制においても変えてはならないものがあります。それは、情報の取り扱い方、対外対応の一貫性、そしてコンプライアンスに対する姿勢です。これらは、誰がトップであっても揺らぐことのない会社の基盤であり、信頼の土台となるものです。体制が移り変わる局面だからこそ、より意識的に守られる必要があります。
会社が長く継続していく中では、トップの交代や体制変更といった変化は避けて通れません。その移行が大きな混乱を招くことなく進むためには、表には見えにくい実務や調整が欠かせません。移行期における秘書の仕事は成果として目には見えにくいものかもしれません。しかし、日常が滞りなく続いているとすれば、それはみなさんが日々積み重ねてきた実務と調整の結果だといえるのではないでしょうか。
秘書室に配属された当初に教わった「会社の基幹を支える仕事」という言葉は、こうした経験を重ねる中で、今では実感をもって理解できるものとなりました。
経営が移り変わる中でも、会社の歩みを止めることなく、静かに支え続けること、それが秘書という仕事の大切な役割の一つなのだと感じています。

このコラムの執筆者

藤田 久美子

コムチュア株式会社
コーポレート本部 社長付秘書役 兼 広報ユニット長

東証一部上場の大手建設会社や食品メーカーなどで20年以上にわたり役員秘書を経験。現職では未上場からJASDAQ、東証二部、一部の市場転換を経験し、秘書室長や広報室長に従事。一般社団法人日本秘書協会では、月例会委員、セミナー委員を担当し、2015年から全国秘書会議実行委員を務める。

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