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危機管理と秘書はどう向きあうか


 毎年秋に開催されるシーエーシーさんの秘書セミナーで、2023年は秘書の危機管理についてお話をさせていただくことになりました。

 昨年、ある秘書室長の方 から、「総務などが主導する全社の危機管理はわかるが、秘書室で行う危機管理のイメージが湧かない。具体的にどうしたらよいのでしょうか」と質問をされたことがあります。そこで、今回のセミナーでは、秘書室が組織として行う危機管理の事例と、秘書が個人として行う危機管理の事例を、できるだけたくさんご紹介する予定です。

 秘書業務と危機管理は、切り離せないほど密接だと私は考えています。役員や会社の機密を守ることも、コロナ対策もその代表です。特にAIなどITが進んできている中では、情報セキュリティを扱う力が秘書には必要とされています。

 最近、秘書業務でもRPAやChatGPTを活用している事例を聞くようになりました。昨年のシーエーシーのセミナー事前アンケートでもRPAを6社が使っているとのことでしたし、私が責任者をしている日本秘書協会の管理職の集まりでもChatGPTの活用が数社報告されています。例えば、難しくて微妙な内容を記載しなければならない報告書や礼状などを作成する際は、ゼロから作るよりも、最初にChatGPTである程度文書を作ってもらい、秘書が仕上げをすることで、かなりの時間短縮を図ることができます。

 ITが進んだことで、役員が秘書に求めるレスポンスが早くなっています。コロナ前では求められなかったITオペレーションや資料作成なども、スピードアップを期待されています。それに応えるためにITスキルを上げることや、経営サポート知識を増やすことは武器になるので重要です。しかし、そこには機密の保持やセキュリティ対策を細心の注意を払って行うことも求められます。

 オンラインでの会議や面談が増えている中で、回線ダウンやシステム異常などが無いようにシステムの事前チェックをするといった秘書業務も増えました。

 会議の出席者が急に増えた場合には、その人に資料を送信する、またはデータへのアクセス権限を付与するのも秘書が行うケースがありますが、オペレーションミスで他の人を設定することなど無いよう行うことが求められます。

 また、Googleの検索や、AIには機密事項を入力しないというルールを全社で決めている会社も多いのですが、機密の判断は人間が行うものなので、海外事業部からの書類を翻訳するためにAIを使った結果、無意識に機密情報を入力してしまったという報告も聞きました。

 危機管理はITばかりではありません。昔から秘書は、役員の出張・会食、車での移動ルート、宿泊先などに関し、選定や当日の動きに対してかなり気を配っていました。しかし、ここ15年くらいで役員本人が予約やアポイントをする機会が増えたことで、秘書の危機管理意識が減ってきたように思います。
 
 危機管理は、予防することと、実際にトラブルなどが起こった時の対処に分かれます。きちんと対策を実施している秘書部門では、最悪を想定した予防策を設定しています。

 例えば、役員が倒れた時に備えて事前に家族に渡す緊急連絡表も、倒れた時に役員に意識が無いことを前提として記載しています。私の経験でも役員が倒れた時に意識が無かったケースが2度ありました。他にも、役員車で移動時に地震などが発生した時のマニュアルを社有車に装備している会社では、地震発生時に携帯電話など通信インフラが使えなかった場合を想定して対処法を記載しています。

 役員が倒れても携帯電話で会社に連絡できるはず、地震が起きても携帯電話はつながるはずでは、危機管理にはならないのです。

 私は、3人目に仕えた社長の時に、全国の顧客に危機管理などの事例を伝える本部の責任者となり、2年半で延べ1千社ほど訪問したことがあります。毎月1~2度の講演も行いました。東日本大震災の前後だったこともあるのですが、会社によってとても危機管理の意識が違うことを痛感しました。当時は地震対策に目が向きがちでしたが、役員が対処すべき経営リスクは4部門40項目に分かれており、地震、火災や感染症などの自然災害リスク、情報漏洩などのオペレーションリスク、人材流出などの経営リスク、風評被害やテロなど社会経済環境リスクなど様々です。

 これらすべてに予防策を打つことはできませんが、少しずつでも対策を講じることで、実際に起きた時の行動や意識が異なり、会社や役員、さらには秘書自身を守ることが可能です。

 火災、感染症、地震や水害などへの対策が危機管理という感覚の人もいますが、役員の体調管理や来客の安全性確保などやることはたくさんあります。また、法令順守も大切です。役員や秘書自身が無意識に法令やルール違反をしないようにすること、さらに来客や会食相手が公務員の場合には、服務規程違反をさせないように注意することも大事です。

 秋のセミナーでは皆さんから事前にいただいた危機管理に関する質問にも、できるだけお答えする予定ですので、ぜひご参加ください。

このコラムの執筆者

及川 学

一般社団法人日本秘書協会
・元常任理事
・秘書管理職委員会総括責任者
・認定講師「経営サポート力講座」「秘書基礎講座」「実践危機管理セミナー」
「新任秘書管理職講座」「秘書のための経営知識」などを担当

■現住所 千葉市
■年齢 62歳
■職歴大興電子通信株式会社(東証2部)
営業課長、秘書課長、経営企画部長、営業推進統括部長などを経て
上席理事企画推進本部副本部長、コーポレート本部副本部長、
イノベーションセンター長(本部長)関西支店長(本部長)
などを歴任。2016年9月退職後、
KSGグループ秘書役兼IT統括室長
兼一般社団法人信書便事業者協会事務局長を経て現職
■現職 一般社団法人日本セルフストレージ協会事務局長
■資格 中小企業診断士
BCAO認定事業継続初級管理者(国内BCP資格)
■公職等日本経営システム学会 正会員
秘書フォーラム発起メンバー
CBS(国際秘書)検定 元試験委員(経営・法律)
■著作 『秘書室長実践マネジメントマニュアル』代表著者(アーバンプロデュース社)
『よくわかる経営知識』 (日本秘書協会)
■講師歴経済産業省、総務省、岩手県、商工会議所、日本秘書協会、
日本IBM、税理法人トーマツ、ヤマハ発動機、新日本石油、シスメックス、
ボストンコンサルティング、セブンイレブンジャパン、日立製作所、豊田通商、
イオン、ブリヂストン、他

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