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秘書として見える景色

 経営の世界で有名な言葉に、“会社は社長の能力以上に良くならない”というのがあります。この能力には、将来のビジョンを提示すること、重要な判断をすること、適切な人事を行うこと、社員に想いを伝えること、顧客や仕入先などステークホルダーとよくコミュニケーションを取ることなども含まれます。
 私は7人の社長に仕えてきましたが、この言葉になるほどと思う一方で、秘書として長く社長をサポートしてきた経験から、“会社は社長とそのスタッフの能力以上には良くならない”の方が正しいのではないかと思うようになりました。
 社長の主な仕事は前述したとおりで、これを実行するために効率的なスケジュールを組み、体調を見て調整し、発表の場の段取りや文書やプレゼンテーション資料を作成・修正するスタッフが、きちんとしていないとうまく進まないことがあります。もちろんこのスタッフには重要な役割として秘書が含まれます。
 私は経営企画を兼務していたため、会社の中期計画、ニュースリリースや有価証券報告書などを書いてきました。今でも多くの会社のニュースリリース、有価証券報告書やIRレポートなどに目を通しますが、ごくたまに誤った表現、誤字、適切ではないグラフなどを見かけます。例えば、会社案内などに“わが社はXXXXという課題を解決します”と書いてあるのを見かけますが、課題は解決するものではなく、課題は達成するものです。解決するのは問題点です。経営を学んだものにとっては、“問題点は解決する、課題は達成する”という表現は常識です。課題を解決しますという言葉を、社長が使ったとしてもそれをスタッフが修正しないと、世の中に出回ります。
 よくある過ちをもう1例。“わが社の業績は前年比120%となり、前年より20%もアップしました”と経営者が説明することがありますが、これも“わが社の業績は前年比120%となり、前年より20ポイントもアップしました”が正しい表現です。経営者は多忙なので、外部に発表する資料やパンフレットなどを隅々までチェックすることはなかなかできません。細かいチェックや仕上げはスタッフの仕事です。経営者が立派でも、スタッフが細部まで気がついてサポートしなければ、会社は良くならないのです。
 私の経験をお話しします。私は入社後、宇都宮支店にコンピュータの営業として配属されました。14年目の7月に非定期異動でいきなり秘書課長になりました。 秘書の仕事はもちろん初めてで、最初の1年は形ばかり秘書らしく見えるように、いかにも一生懸命に、かいがいしく動いていました。しかし、どうもしっくりこないのです。
 原因を考えた私は次の2つだと気が付きました。1つ目は、社長が指示する経営用語や趣旨がよく判らずストレスが溜まっていました。社長の言っていることが本当にわかっていなかったのです。2つ目は、秘書という仕事を楽しめていませんでした。そこで私は、先ず社長が言っている経営用語がわかるようになるために、経営関連のことを勉強しました。財務会計、人事労務、法務、経営、IT、顧客満足、製造・流通のしくみなどです。
 勉強を重ねていくと、社長から調べてくれと言われたことに、その場で回答できることが増えました。社長の指示を伝えるために法務部や経理部に行く時も、指示の趣旨を理解した上で説明することができるようになりました。
 秘書としての私から見える景色が変わりました。社長からの私への信頼も以前より強まったように思えるようになり、当然、秘書としての活動を楽しめるようにもなりました。
 結果として、会社を退くまで秘書職にいたのも、何人か変わっても社長へのサポートでストレスがほぼ無かったことと、秘書を楽しむことを覚えたからでした。
 営業からいきなり秘書になり、そのうちすぐ営業に戻るだろうと思っているうちは、誠意をもってサポートしているつもりであっても、本当のスタッフたり得えなかったのです。
 社長のそばでサポートをするなら、社長を理解することが大切です。まごころで接するだけでは足りません。社長が欲していること、知りたいことを察して、いつでもそれに対応できるように準備しておく知恵が必要です。 今年の10月24日にはOliveセミナーで講師をいたします。秘書を楽しむということもお話しする予定ですので、ぜひ会場にお越しください。

このコラムの執筆者

及川 学

一般社団法人日本秘書協会
・元常任理事
・秘書管理職委員会総括責任者
・認定講師「経営サポート力講座」「秘書基礎講座」「実践危機管理セミナー」
「新任秘書管理職講座」「秘書のための経営知識」などを担当

■現住所 千葉市
■年齢 62歳
■職歴大興電子通信株式会社(東証2部)
営業課長、秘書課長、経営企画部長、営業推進統括部長などを経て
上席理事企画推進本部副本部長、コーポレート本部副本部長、
イノベーションセンター長(本部長)関西支店長(本部長)
などを歴任。2016年9月退職後、
KSGグループ秘書役兼IT統括室長
兼一般社団法人信書便事業者協会事務局長を経て現職
■現職 一般社団法人日本セルフストレージ協会事務局長
■資格 中小企業診断士
BCAO認定事業継続初級管理者(国内BCP資格)
■公職等日本経営システム学会 正会員
秘書フォーラム発起メンバー
CBS(国際秘書)検定 元試験委員(経営・法律)
■著作 『秘書室長実践マネジメントマニュアル』代表著者(アーバンプロデュース社)
『よくわかる経営知識』 (日本秘書協会)
■講師歴経済産業省、総務省、岩手県、商工会議所、日本秘書協会、
日本IBM、税理法人トーマツ、ヤマハ発動機、新日本石油、シスメックス、
ボストンコンサルティング、セブンイレブンジャパン、日立製作所、豊田通商、
イオン、ブリヂストン、他

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