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ビジネスの真価 〜社業としての接待を成功させるために〜

 役員に会食があった翌朝のブリーフィングでは、「昨晩の会食はいかがでしたか?」と必ず様子をお伺いすることを心がけていました。秘書として、会食後の先様へのお礼状の内容を具体的に表現するためにはもちろんのこと、取引先を招待した会食であれば、その会食の進行具合や今後の留意点などを把握するとともに、役員自身が満足のいく接待であったかなどの情報を収集し、価値ある接待の下支えを行うことが肝要です。 

 役員の接待には、会食、ゴルフ、イベントの招待、スポーツ観戦、旅行などさまざまな形態がありますが、ここでは会食接待に焦点を当ててお話ししましょう。私が研修を行っている折、昨年あたりから役員の接待の機会が急増し、秘書の皆さんから「会食の場所や手土産の選定に苦慮しています」という声をよく耳にします。役員に陪席する営業職のスタッフであれば直接様子を感じ取れますが、オフィスから遠隔で、準備、進行管理、後始末などを担当する秘書としては、これらの情報収集は容易ではありません。ホストである役員の顔を立てることにも配慮し、役員の立ち回り先各所にいるプロ(ドライバー、ホテルやレストランのスタッフなど)、また可能であれば異業種や他社の秘書との良好な関係を築いておくことで、プロフェッショナル軍団のホスピタリティーや秘書同士の情報共有に援助してもらうことも大切です。

 質の高い接待を成功させるための準備はどうすれば良いのでしょうか。一概に有名レストランを予約し極上のワインと豪華なお食事やエンターテインメントでおもてなしをすれば良いというわけではありません。まずは役員の意向を理解し、接待する相手に喜んでいただける要件を把握し、その場に出向く役員の目線をもって段取りよく手配することが求められます。それらの要件には、最適な「場所」、会食・面談に適した「環境」、店舗や食事の「品質」、過度にならない「配慮」など多くのファクターがあり、これらを充分考慮して選定することが必須です。例えば、出発時刻の検討に際してはドライバーの持っている知見と交通状況を、また現場における車寄せからの動線などの細かな情報に関してはホテルやレストランのスタッフに確認するなど、インターネットでの検索では入手し得ない確度の高い実情報を得ることや、それらを活用する方法を知っていることが重要です。

 ある企業の秘書が得意先との会食をアレンジした際、レストランとのコミュニケーション不足により発生した残念な例があったことを伺いました。
 大手企業K社長の秘書A子さんがあるレストランの会食予約をした時のことです。K社長からは「有名なY会長との会食だから大ごとにならないよう内密に個室での予約を」と指示を受けたそうです。A子さんはレストランに対し「2名での個室をお願いします」とだけ伝え、気を利かせたつもりで先方のお名前などを伏せたままにして予約を済ませました。ホスト側であるK社長は大物をお迎えするために少し早めに到着し、奥の個室の席につきました。そして、時間になり来店したこの店の常連客であったY会長は「やあ、今日は二人だけだから」と言って普段からお気に入りのコーナー席に座られたそうです。実は当日このまま時間が過ぎ、双方とレストランのスタッフがヤキモキするなか無駄な時間が経ち、ようやくレストラン内の別の場所にいらしたお二方が顔を合わせることになり、大切な会食が気まずいスタートになってしまったとのこと。企業人として各種情報の守秘義務と開示の必要性を入念に取捨選択すること、そして接待の場として選定したホテルやレストランに適宜必要な情報を提供するという行為が如何に重要かを考えさせられるケースです。受け入れ側であるホテル・レストランに必要な情報を事前に提供しておくことで、店舗で過ごす時間を価値あるものとするために力を貸してくれます。秘書が自分一人でできることには限界があります。そのため、できるならば日頃から役員が利用するホテルやレストラン側とコミュニケーションを積極的に取り、安心して信頼できるプロにサポートしてもらう体制を作っておきましょう。

 私が主宰する秘書の勉強会では、秘書の皆さんが日々直面している課題に関する情報交換や、見聞を広めるための最新の情報に接する機会を創出することを目的とし、交流と情報収集の場を提供しています。ホテルやレストランの利用方法を学ぶための企画では、実際に私たち自身が現場を訪ね、その場に立ち、役員が実際に利用するお店や個室を視察し、ホテルスタッフとの直接的な関係性作りを実施し、好評を得ています。インバウンドと円安による価格高騰の現状を考えると、なかなか自分たち個人で5つ星や新規参入のホテル、高級レストランなどに出かけることは難しいものです。しかしながら、それらに興味を持つことが自分をブラッシュアップさせるための動機づけになるのも事実です。ぜひ皆さんも少し背伸びする機会を見つけてみてはいかがでしょうか。

このコラムの執筆者

丸山 ゆかり

一般社団法人日本秘書協会 顧問、元専務理事、同協会認定講師
1995 年度ベストセクレタリー(日本秘書協会主催)
株式会社チュニーズ・カンパニー 代表取締役

大手製薬会社にて社長秘書、秘書課長、国際本部営業部欧米課課長。その後、化粧品会社の取締役副社長を経て独立し株式会社チュニーズ・カンパニーを設立。
2005 年より日本秘書協会主催の秘書実務講座、接遇セミナーを担当。2021 年よりジャパンラーニング(株)と共同で秘書 EQ を開発し、研修を実施。
2022 年より、秘書のスキルアップとキャリアアップのためのオフサイトセミナー「森の秘書会議」を主宰。
大手企業秘書室と共同開発した秘書の実務能力評価のための新システムを展開中。
企業、自治体、官公庁での秘書研修は 300 件以上。
薬剤師・薬学修士・キャリアコンサルタント

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