秘書の仕事を考えるOliveブログ
「つながりが、人を育てる」
気づけば、秘書の仕事に就いて30年。
入社した頃の私は、キャリア志向などまるでありませんでした。当時の秘書室は今より数段も保守的でしたから、若手の仕事はもっぱらお茶出しや事務処理ばかり。先輩に言われたことを、ただ黙々とこなす日々で、仕事の面白さも、自分がそこにいる意味も、考えたこともありませんでした。
そんな私の転機は、入社4年目に、28年間アメリカに駐在していた方が社長に就いたことです。当時の日本の秘書は、上司の指示を正確に実行することが何よりも求められていました。自分の意見を言うなんてありえません。
そんな時代に、「右向け右は求めていない。あなたはどう思うの?」
秘書にも自分の考えを持ち、主体的に関わることを求めてきたのです。
その方のそばで働くうちに、私は少しずつ仕事の面白さを知っていきました。
彼が繰り返し言っていた言葉を、私は今も大切にしています。「自分の範囲を決めすぎるな」「慣習やルールにこだわるな」「仕事にはのりしろを持て」。ルールにこだわるな、とは、破っていいという話ではありません。時代が変われば、ルールのほうが合わなくなることもある。だから当たり前を当たり前と思わず、一度疑ってみなさい。そういう意味でした。
この教えは、私に「ダメもとでも、やってみる」という一歩を踏み出す勇気をくれました。ダメでもともとと思えるからこそ、必要以上に構えずに動ける。前例のないことにも、肩の力を抜いて挑戦できるようになったのです。もちろん、新しいことに壁はつきものです。だからこそ一人で抱え込まず、仲間とつながりながら進めてきました。どんな順番で進めるか、誰に理解してもらうのが最善かなどを考え、少しずつ環境を動かしていく。その積み重ねが、変化を恐れず挑戦し続ける土台になりました。
振り返れば、この30年は変化との出会いの連続でした。働く環境も、役員の求める支援も、秘書に期待される役割も大きく変わりました。相手を思う心配りや誠実さといった秘書の本質を大切にしながら、「何を守り、何を変えていくべきか」 を問い続ける場面が何度もありました。その変化の中で、私を支えてくれたのは人とのつながりです。ボスの一言に気づきをもらい、社外の秘書仲間から刺激を受け、若い世代との対話から新しい視点を教わる。振り返ると、多くの人との出会いに育ててもらった30年だったように思います。
今DXが進み、AIが急速に発達する中、情報処理や定型業務の自動化が当たり前になりつつあります。正確かつ迅速な処理は、ますますAIが担っていくでしょう。だからこそ私たちに求められるのは、単に「作業をこなすこと」ではなく、その先にある「価値を生み出していくこと」です。自ら考え、人と人、会社と会社をつなぎ、信頼関係を築きながら、より良い意思決定を支える。そうした役割の重要性は、むしろ高まっていくのではないかと思います。
そして、その価値は決して一人では生み出せません。
秘書という仕事は、人とのつながりの中で新しい価値を生み出していく仕事です。
だからこそ当社でも、経験や知識を持ち寄り、互いに学び合える場づくりを大切にしています。
10月の講演では、人とのつながりや学び合いが、どのように新たな価値を生み出すのか。そして、その価値を一人ひとりの成長だけで終わらせず、組織の力へとつなげていくために、どのような仕組みが必要なのか。
当社で実践してきた取り組みをご紹介しながら、変わり続ける時代における秘書の可能性について、皆さんと一緒に考えていければと思います。
内藤 朋子
新卒でキヤノンマーケティングジャパンに入社後、秘書室に配属。以来30年にわたり、歴代トップマネジメントの秘書として業務に従事する。2016年に課長、2024年からは室長として秘書業務全体を統括。2019年には、グループ役員秘書約30名による部門横断型の教育連携体制を構築し、人と人とのつながりや学び合いを通じた人材育成に取り組む。現在は、キヤノンMJグループ秘書の「ありたい姿」の実現に向け、One Teamで挑戦を続けている。