秘書の仕事を考えるOliveブログ
ボスが求める秘書のプロフェッショナリズム〜戦国武将、藤堂高虎に思う「支える力」〜
NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」は、天下人へと駆け上がる秀吉と、その歩みを支えた弟、秀長の物語です。秀長が長く生きていたなら、歴史は変わっていたかもしれないともいわれます。今回、私が目を向けたいのは、その秀長のもとで力を磨き、のちに自らも時代を支える存在となった藤堂高虎です。
高虎は浅井長政のもと十五歳で初陣を果たしたのち、秀長、秀吉ら、幾人もの主君のもとで戦国の世を駆け抜け、やがて徳川家康を支える大名として重用されます。仕える相手が変わっても力を必要とされ、大きな仕事を託される。幾度もヘッドハンティングされるプロフェッショナルを思わせる歩みです。
築城の名手として知られる高虎が、設計や工事に携わった城は、全国で二十余にのぼるといわれます。宇和島城や今治城の築城から江戸城や二条城の修築まで手がけ、培った知識と経験を津の城下町づくりにも生かしました。その仕事は、京都の知恩院や南禅寺の三門など、寺院の造営にも及びます。
高虎は自ら築城の見識を深めるとともに、石垣づくりの穴太衆をはじめとする専門家を重用しました。戦う時代から天下泰平の治める時代へ。環境が変わっても専門性を磨き、その時々に求められる仕事を形にしていったのです。
戦国武将と秘書を重ね合わせるのは、いささかおこがましいかもしれません。それでも、相手の目指すことを理解し、自分の専門性を役立て、任された仕事を形にする。私はそこに、秘書の仕事に通じる『支える力』を感じます。
秘書の役割は、役員の力が最大限に発揮されるよう支えることです。私は社長秘書として、社長が何を成し遂げようとしているのかを考え、一つの言葉からその先に必要なことまで想像し、準備を重ねるよう努めました。「実力以上のものは出せないのだから、日々の準備、積み重ねが大切!」これは私自身への戒めでした。難しい問題に直面したときに差し出せるのは、その日までに身につけた知識、判断力、経験だけ。変化は、こちらの準備を待ってはくれません。
先日、某企業の研修で、経験の長い派遣秘書の方から「担当する役員や職場が替わっても、秘書として着任したその日から、役員に『以前から自分を支えてくれている秘書のようだ』と感じてもらえる仕事を目指している」という言葉を聞きました。その志に、私は秘書としてのプロフェッショナリズムを感じ、大いに感銘を受けました。
今後の秘書業務では、この「備える力」の一部をAIに委ねることもできるでしょう。役員の経験や知識、思考や行動のパターン、リスクへの対応方法などを適切に蓄積し、AIが参照できれば、属人的になりがちだった秘書業務の一部を、より普遍的で再現性のある支援へと広げられます。
そのうえで、AIに何を任せ、秘書が何を判断し進めるのか。役員のその日、その時の言葉の奥にある意図を読み取り、人や組織への影響を考える。そこに、これからの秘書の価値が問われるのだと思います。
例えば、取引先の方の退任に際し、役員から「何かお礼を考えて」と指示を受けたとします。品物を選ぶのであれば、その前に知りたいのは、役員が何に感謝しているのか。「事業が厳しかったとき、最後まで力を貸してくれた方なんだ」と聞けば、伝える言葉も変わります。また、共に働いた社員から具体的な出来事も聞き、お礼に添えることができれば、相手は「自分の仕事を覚えていてくれた」という喜びにつながるでしょう。AIを使って文面を整えることができても、最終的に何をどう伝えるかを判断するのは秘書自身です。
日々磨いた知恵や経験、スキルや判断力を、必要なときに差し出せるよう備える。それが私の考える『支える力』であり、秘書としてのプロフェッショナリズムなのです。
高虎は家康に「天下の大事あらん時には一の手は高虎に」と言わしめたと伝えられます。さらに、上野東照宮の由緒には、危篤となった家康が高虎と天海僧正を枕元に呼び、「三人一つ処に末永く魂鎮まるところ」をつくってほしいと遺言したと記されています。
家康の遺志を受け、高虎は屋敷地を献上し、天海とともに上野東照宮の創建に携わりました。今も上野には、家康を祀る東照宮、天海を祀る寛永寺の開山堂、そして高虎が眠る藤堂家の墓所も上野動物園の中に残されています。
上野の森は、その信頼と約束を今に伝えています。
丸山 ゆかり
一般社団法人日本秘書協会 元専務理事、当協会認定講師
1995 年度ベストセクレタリー(日本秘書協会主催)
株式会社チュニーズ・カンパニー 代表取締役
秘書実務能力開発機構(Pro-Admin JAPAN) 代表
大手製薬会社にて社長秘書、秘書課長、国際本部営業部欧米課課長。その後、化粧品会社の取締役副社長を経て独立し株式会社チュニーズ・カンパニーを設立。一般社団法人日本秘書協会では、理事として20年間務め、セミナー委員などを歴任。
秘書教育に30年間ほど携わり、2005 年より日本秘書協会主催の秘書実務講座、接遇セミナー等を担当。各企業で展開。企業、自治体、官公庁での秘書研修は 350 件以上。ジャパンラーニング(株)と共同で秘書 EQ を開発し、秘書力向上研修を実施するほか、秘書のスキルアップとキャリアアップのためのオフサイトセミナー「森の秘書会議」を主宰。秘書実務スキルの向上のため、ジョブ型移行・能力評価のための新システムを大手企業秘書室とともに開発し、秘書実務能力開発機構 (Pro-Admin JAPAN)として新時代の秘書育成を展開中。薬剤師・薬学修士・キャリアコンサルタント